Tue - March 23, 2004

大沢在昌「かくカク遊ブ、書く遊ぶ」


新宿鮫」シリーズや「天使の牙」の原作者であり直木賞作家、且つ大沢オフィスの大親分の大沢在昌氏が若い頃よりいろんな誌面に書いたエッセイ。あくまでハードボイルドにこだわる大沢氏のエッセイは読みたかったんだよね。

大沢オフィスの他のお二方(京極夏彦宮部みゆき)とのデビュー時期の差を考慮に入れた上でも、多作と言って良いと思うんですが、「大極宮」を読む限りではゴルフ、釣り、民宿の運営、ゲーム、飲み…と、レジャーを犠牲にしている様子がまるで感じられず、日頃締め切りに追われて他の事が何もできずにいるオイラとしては最大級のリスペクトを向けているのです。

…なんですけど、これまで作品以外の、生い立ちというか生活を垣間みる事ができたのは大極宮のみ(ホントはこのエッセイも結構前に出てた上、どうも二冊目らしい…)だったので、本屋さんで見つけた時はウキウキして手に取りましたよぅ。
最近あまりジャンルとしての勢いが一頃ほどないように見られる事が多い「ハードボイルド」ですが、そもそも日本ではこのジャンルが誤解されたまま、という事を初めて知った次第。
マイ・ファースト・ハードボイルドは子供の頃に図書館で読んだダシール・ハメット「マルタの鷹」だったと思うんですが、別に殺戮の嵐が吹き荒れている訳でもなく、その後読んだ作品でも、不器用な生き方しかできない主人公というイメージが強いので「高倉健がokなら、ハードボイルドもokのはずじゃんよぅ」と、この本と直接関係のない憤りを感じてみたり(笑

大沢氏には割と豪快サンなイメージがあったんですが、読んでみるとすごく育ちが良いらしくて。作家を目指した頃に「内面に鬱屈したものをかかえている人間が作家になれるが、君にはそれがない」とまで言われた模様。古い考え方としてはこの意見はわからなくもないんだけど、鬱屈したものを抱えていないからこそ、本来の意味でのハードボイルドを書く事に成功して、鮫島や「らんぼう」の二人組のように、根底に優しさを持つ魅力のあるキャラクターが生まれてきたんだなぁ、と思ったり。

賞を受賞した時のジンクスや、連日酒席や麻雀に誘われる話、釣りやゴルフの話、ちょいとセクシャルな話…いわゆる作家タイプの性格の日常ではないのに、あれだけの作品を次々と生み出している訳なんで、何かを成功させるために他の事を犠牲にしているのは立ち回りが下手なだけなんじゃないか?と自戒する大きなキッカケとなる一冊でしたよ。特に、プロゴルファー青木功氏へのインタビューのエピソード、コレはモチベーションが下がった時に何度も読み返す事でしょう。

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