Sat - June 28, 2003

倉知淳「壺中の天国」


唐沢なをき氏のイラストに惹かれて読んだ「猫丸先輩の推測」以来追っかけてる倉知淳氏の(文庫では)最新作をようやく読了。その内容は想像をはるかに絶する満足度だったのでした...。

忙しくてステキ書店にいく時間もない時に車内広告でチラっと見かけて「えーすぐ買わなくちゃ」と思ってから半月近く入手できなかったのは、まさか角川文庫だとは思わなかったから(だってこれまで創元推理文庫とか講談社ノベルズばかりだったんだものー!角川文庫の傾向と違うじゃない。だから探す時にもこのコーナーだけ外してた...)。

オイラは普段からまず作家で選んで、なんとなく開拓気分の時は出版社の傾向とタイトルだけで選んじゃうんで、大好き作家の場合は裏のアラスジとかはまったく目もくれないのな。
で、読み始めてビックリいきなり先頭しょっぱなからボールドのゴチック体で電波ゆんゆんで受信しまくりなアジ文書が登場しかも年取った女の人が向かいの家の夫婦に電波攻撃されて生活は大層難儀するしこりゃたまらんと訴えるもまわりの人は相手にしてくれない間にさらに電波攻撃は続くし住んでる町には大掛かりな送電線が敷かれると余計に電波が誰か止めて下さい宇宙から電波が命令するのです頭の中に直接響いてくるので生活には支障をきたすしああそうだこの電波は向かいの家夫婦が揃って私を攻撃しているからだ宇宙からの電波でこれを防ごうにも距離の違いのせいか向かいの家の方が威力が強いからこれを世間に訴えて向かいの家夫婦の悪行を世間に知らしめて断固糾弾するのが私の役目はとても大事な事ですのでよくお聞き下さい実は向かいの家夫婦が一日中私を攻撃するのです電波で攻撃するので助けて下さいと言っても助けが来ないのはやはり電波攻撃によるものですかそうですか

...的(上のは文体真似てみただけ)な「おいおい俺はいいけど世間的にはいいのかよ」っつー感じの文章で始まっていきなり引き込まれたんだけど、さすがに心配になって。オイラにはまずありえない事なんだけど、あとがき読んじゃったよ。ホントにコレはオイラが好きな作家の小説なのかと。...合ってる。この経歴とこの作品群は確かに俺読んださー!と気を取り直して読み進めて行くと、これがまた事件らしい事件がなかなか起きない。日常の延長な雰囲気は確かにこれまで読んでた作品でもそうだったからいいんだけど。しかし、村崎百郎/根本敬「電波系」(ネタがネタなんでハイパーリンクはやめとく...)が参考文献に挙がってるミステリなんて、初めて知ったよ...。

すごい小説だよ、コレ。ヲタ文化とかサブカル系に興味があるとか愛読書はBUBUKAです、とかそーいう人だったら一撃でやられるし、現代社会の嫌な部分や駄目な部分をこれでもかと目の前につきつけて来る。謎が謎を呼ぶ。でも描かれてるのはあくまでも日常の延長なもんだから、いわゆるミステリにありがちな「舞台を限定してお話進めましたー」な、ご都合主義的展開もないし。
で、最後近くなって、流石に「奴が犯人かー!?」とか解ってもその結論に至るプロセスがどうも自分の中で釈然としない。で、読み進めて行くとちゃんと筋が通ってる。で、オチも知った瞬間に「はぁぁ!?」と思う人もいる(オイラはok)だろうけど、後日談を読むとどうも思い当たる節があって、読み返してみると「うわ!こんなところに伏線が!?ここなんて完全に読み飛ばしてたぞ」てゆー、ミステリ好きなら間違いなく知ってるだろう「騙され通した快感」がビクンビクン来る訳ですよ。伏線、すごすぎ。

つー訳で、カーニバルで体力使いすぎてここしばらく軽めのエッセイとかマンガしか読んでなかったんだけど、ようやく完全復活!仕事に行く時の電車の中で読み終えて、帰りの電車で読む本がなかったから、最後の直前で放置してた「どこでもチョコボ2後編」もなんだかクリア。なんか趣味的には濃度の高い、休日出勤な土曜日。

Categories
Total entries:

Archives
rss