Sun - October 12, 2003

殊能将之「美濃牛 MINOTAUR」


ハサミ男で第13回メフィスト賞を受賞した作者の、2冊目の単行本。前々から読みたいと思ってたのだけど、今回ようやく縁あって読めました。厚いんだけどスイスイ読んでしまう事ができた訳は。

まず、全作の出来の良さで安心して読む事ができた、ていうのが大きいんですが、導入で都会から山村に移って行く場面が、あーありそうだこんなやり取り、と納得できてスンナリ入れたのがひとつ。正直、田舎を舞台にした場合、その舞台の特殊性が引っかかりになって(違和感とか、閉鎖性とか、いろんな場合がある)イキナリつらい場合があるんだけど、この作品だと冒頭の意味するところ(絡新婦の理の冒頭部の描き方と近いかも)、田舎が舞台になる必然性も、都会に住む人間から見ても納得の行く理由(バブルの頃だとよくあった理由ではあるけど、最近は逆に少ないから却って新鮮)、どれも興味を惹くものだったんだよね。

岐阜といえば飛騨牛が有名な訳ですよ。ご相伴に与れる事はまずない高級国産牛肉ですけどね。それに対しての美濃牛てのは、正直聞いた事がない。それが各節(章の中の小さい区切り)冒頭の引用で「あぁ、こういう効果を狙っているのか」と世界作りもしっかりしてるし、登場人物は多いけれどキャラの書き分けがハッキリしてるから混同する事もない。色んな人間模様がありつつ、それがミスリードだったり(途中で一度あからさまに怪しい人物に騙されたなー)、大した事ないと思ってた伏線が後で意味を持って来たり。最後の犯罪が行われた時には構造が理解できたので、ハサミ男ほどの衝撃は受けなかったんだけど、収束していく快感もあれば、伏線を解き明かされて「あーやられた!」感もあるし、余韻...というか、その後を想像する余地もあって、ミステリ好きなら読んで損はない、世界にのめり込めるものだったなー、と。

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